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10/6 日経新聞掲載記事 『大廃業時代の足音 中小「後継未定」127万社』 のご紹介

2017.10.11

日経新聞掲載記事『大廃業時代の足音 中小「後継未定」127万社』をご紹介致します。

 


 

中小企業の廃業が増えている。

後継者難から会社をたたむケースが多く、廃業する会社のおよそ5割が経常黒字という異様な状況だ。

2025年に6割以上の経営者が70歳を超えるが、経済産業省の分析では現状で中小127万社で後継者不在の状態にある。

優良技術の伝承へ事業承継を急がないと、日本の産業基盤は劣化する。

「大廃業時代」を防ぐ手立てはあるか。

『優良技術断絶も』

「あと2年くらいで会社をたたもうと思ってるんだ」。

極細の「痛くない注射針」で世界的にも有名な金属加工業、岡野工業(東京・墨田)の岡野雅行会長(84)の表情は何かを悟ったように穏やかだ。

金型づくりやプレス加工は自動車などの技術改良に貢献し、会社は黒字だ。

 廃業理由は「俺の後がいねえから。 娘2人も別の道に行ったし」。
注射針の製造装置はともに特許を取得した医療機器メーカーのテルモに移管。

1924年創業の老舗企業は途絶える見通しだ。
「オンリーワン技術を持つ企業がなくなればものづくりの基盤に打撃」。

同社と取引のあった自動車部品会社幹部は語る。

 東京商工リサーチの調べでは、2016年の中小企業の休業・廃業は2万9583件。
約2万1千件だった07年から大幅に増えた。

企業倒産は景気回復で年々減少しており、人口減による休廃業の流れが強まっている。

 経済産業省によると、中小経営者で最も多い年齢層は15年時点で65~69歳。
平均引退年齢は70歳だ。

25年時点でこのリタイヤや適齢期を迎える中小経営者が約245万人と、全中小の6割以上の上る。

アンケートではその約半数にあたる127万人が後継者未定だった。

60歳以上の個人事業主の7割は「自分の代で事業をやめる」と答えた。

 同省幹部は「大廃業時代が迫り向こう10年が正念場だ」とみる。

一橋大学経済研究所の上杉威一郎教授は「赤字続きで資金繰りに行き詰まる倒産は産業の新陳代謝に資することもあるが、生産性が高い黒字企業の廃業は経済全体の効率を押し下げる」という。

 経産省の内部試算では黒字廃業を放置すれば25年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円に上る国内総生産(GDP)が失われる恐れがある。

世代交代した企業は利益率や売上高が増える傾向が強く、政府も大廃業回避へ5年程度で集中的に対策を講じる構えだ。

 早めの引継ぎを促すには、税制や金融、予算の総動員が必要だ。
今は親族内で会社を引き継ぐ場合、相続税や贈与税の支払いを猶予する制度がある。

ただ雇用の8割以上を維持しないと全額納付を迫られ「使い勝手が悪い」と不評だ。

 政府はこうした要件を抜本的に見直す。
中小企業がM&A(合併・買収)をする際の税負担も軽くする。

政府と銀行などが連携し、承継した経営者の前向きな投資を後押しする低利融資なども充実させる余地が大きい。

 外部人材登用で事業承継に備える動きもある。
日本酒の「千福」を作る老舗酒造、三宅本店(広島県呉市)。

三宅清嗣社長(58)は再就職希望者を地方に紹介する日本人材機構(東京・中央)の職員、田部井智行氏を招いた。

 「中期経営計画を引っ張れる人材をよそから受け入れた方が早い」。
三宅氏は社内の慎重論を押し切った。

跡継ぎの息子はまだ20代。
「いい教育係にもなる」。

日本酒離れが進む若者への売り込みに知恵を絞る。

 外部人材の登用を増やすため、政府は「兼業・副業」の規制緩和を進める。

全国の商工会議所などにある「事業引き継ぎ支援センター」では専門家が経営者の相談に応じ800件ほどのマッチングを実現した。

5年後には年2千件へと増やす計画だが、100万件を超す後継者難からみれば焼け石に水だ。

 より大規模に事業承継を進めるには、中小企業に関心を持つ多くの投資家らがアプローチできる小規模M&A市場を整えるべきだとの声も多い。

フランスでは事業売却を希望する企業のデータをインターネット上の「全国取引所」で公開し効率的に引き合わせる。

 M&A市場の整備が進めば、アジアの投資家も日本の中小企業に関心を持ちやすくなる。
未曽有(みぞう)の廃業危機と産業の衰退を避けるには、海外の力を借りるのも選択肢だ。

(辻隆史記者)

 

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